メモ帳

web拍手への返信用に用意しましたが、雑記としても使うかもしれません。

「弦月とともに正餐を」についての話

以前、「共生を志向する知的生命体」について色々考えていたことを書いてみたらなかなか楽しかったうえ、自分が漫画で何を描きたいのか少し整理できた心地がしたので、ちょくちょくそういう文を書いていこうかなあと思います。まずは弦月で。

 

この話を描いた動機は、意図しないカニバリズムと自主嘔吐(自分で自分の口に指を突っ込んで嘔吐反射を刺激すること)の二つを織り込んだ話を描きたい!というものでした。これまで描いてきた創作BLのなかでも特に気色悪い話になったような気がするのでかなりお気に入りです。

 

お気に入りとはいえ、いま読み返してみるとわかりづらかっただろうなと思われる部分が多く、自分の技術不足を悔やむばかりなのですが、弦刻の「これでずっと一緒」は相手の胃の中に自分の肉体の一部が収まったことについてではなく、もっと抽象度の高い意味で言っています。正羽にとってこの一件は人生最大のトラウマなわけで、きっとことあるごとに思い出すはずです。食事をしたり、絵画を見たりするたびに弦刻のことを思い出すはずです。そうやって自分に繋がる記憶の引き金を正羽の人生にばら撒くことで、正羽が家に帰っても、それから二度と会いに来なくても、自分のことを繰り返し思い出さずにいられなくすることが弦刻の目的です。ある出来事が人生のターニングポイントになってその前後で価値観が大きく変わってしまっているというのは立派な呪いですよね。というわけで、これは記憶の呪いの物語(として描いたつもり)でした。

ここまで気持ち悪い方向に愛憎を拗らせたメンヘラを今後新たに生み出す自信は正直ないです。

 

この話を描くにあたって参考にした作品というものは正直ないのですが、『暗黒館の殺人』の、一夜の食事が生涯を拘束する呪いとして機能するという部分には影響を受けているかもしれません。

同人誌を再録しました

www.pixiv.net

www.pixiv.net

去年発行した創作BL同人誌2冊を再録しました。個人サイトの方にも載せるつもりなのですが、2冊合わせて80ページ超あるのでリサイズに手間取っています……。ピクシブへのリンクだけ取り急ぎ貼っておきます。

 

特別に意識していたわけではないのですが、並べてみるとⅠは黒い衣装が多く、Ⅱは白い衣装が多い(というか白衣がほとんど)という対照的なキャラデザになってますね。

Ⅰはフルアナログ、Ⅱは線画だけアナログでトーンなどの処理はデジタルでやっています。Ⅱの作業中にペンタブが壊れ、新調した際にクリスタが同封されていたのでついでにデジタルに移行してみたのですが、この頃はまだ全然慣れていなくて、今だったら10分くらいでできる加工に1時間以上かけていた記憶があります。「共生を志向する知的生命体」もⅡと同じく線画までアナログで仕上げがデジタルですね。「共犯と形見分け」はフルデジタルです。

読書感想文

坂口安吾『白痴』(新潮文庫)を読んでいます。

『私は海をだきしめていたい』、タイトルがいきなり最高なんですが、「私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ」という冒頭の一文がいきなり強力すぎて心臓をわし掴みされたみたいな気持ちになりました。

人間は究極的には孤独だという諦めと、そのくせ他者を美しいとか何とか言って求めたがる諦めの悪さと、海のような巨大で無慈悲で無感情な何かに全てを託してみたいという破滅願望一歩手前の欲求と、そんな複雑でどろどろしたいろんな考えが淡々と寒々しく書かれている綺麗な短編でした。破滅願望とないものねだりが二大性癖なのでこの小説に出会えてよかったです。

いま探したら青空文庫にありました。こちらは底本が全集なので旧字や旧仮名遣いが多いですね。

坂口安吾 私は海をだきしめてゐたい

 

安吾の小説には他にも好きな文がたくさんあります。『夜長姫と耳男』の「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」は座右の銘にしたいくらい好きですし、『青鬼の褌を洗う女』の「このまま、どこへでも、行くがいい。私は知らない。地獄へでも」も大好きです。どこか読む人を突き放すような冷たさがあっていいですよね。

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河野

夏は髪結んでてもいいんじゃない?と思ったのですが、いつもより野暮ったさが減ってチャラさが出ているのが気に入らないので没です。

 

すごくどうでもいいことですが、河野はぼんやりしていたら夏服販売期間が終わっていて冬服しか持っていないため、夏でも冬服用の長袖シャツの袖をまくって着ているという設定です。

古淵が長袖なのは古傷やためらい傷を見せたくないからです。

二人とも夏でも長袖設定だとまったく季節感を出せないことに2話目で気づきましたが後の祭りでした。

 

このレベルの、大体30分~1時間そこらで描いたちょっとした落書きをサイトに置くかどうか悩んでいます。貧乏性なのでせっかく描いたものはできるだけ公開したいのですが、他の比較的ちゃんと描いた絵や漫画と比べると粗さが目立つのも確か……。

もしかしたら落書き倉庫みたいなものを新設するかもしれませんし、普通にイラスト作品として各作品ページに今まで通り追加するかもしれません。

近ごろのこと

空っぽ人間なので書くことがなさすぎて全然更新していませんでした。すみません。

 

近況報告1.

「共犯と形見分け」はあと1話で完結予定です。完結したら書き下ろし短編を加えて本にしようかなあと考えています。おそらく来年3月のJ.GARDENで頒布すると思います。

最終話を描くにあたって、今までで一番のバッドエンドを目指したいので、しんどい曲だけ集めたプレイリストを作って作業BGMにしています。自傷行為に近いです。

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近況報告2.

色んな知人から薦められまくったので、ワールドトリガーを最新18巻まで一気に読みました。とても面白いです。世界観もストーリーもキャラクターひとりひとりの人格も、とても緻密に構築されているのでストレスなくのめり込んで読むことができました。連載を再開するとのことで、続きを楽しみにしています。

 

近況報告3.

靴が同時期に3足壊れました。

「共生を志向する知的生命体」についての話

「絶対的他者との共存」をテーマにした漫画を描きたいなという思いが随分前からあり、当初は「結局は分かり合えないのだ」という後ろ向きな結論に落ち着けるつもりだったのですが、作業中に観た映画の影響で考え方が大分変わり、最終的に私にしては珍しく優しいお話になったのではないかと自負しています。

その映画というのが『散歩する侵略者』『羊の木』の二本なのですが、機会があったら観てみてください(ダイマ) 両方とも切なくも希望のある終わり方をしますが、中盤は不穏で怖いし血も結構流れるのでそこはご注意ください。

 

他者性という概念を浮き彫りにするために、わかりやすく人類にとって絶対的他者であり脅威でもあるエイリアンを登場させましたが、別に人間同士だって、相互に完全な理解は得られていないのに共感し合っているという歪な状態はよくある、というかほとんどすべての人間関係がそうだと私は思っています。人間という同じ種族でも他者なので。自己以外はすべて他者なので。

「歪な」という言葉を選ぶとマイナスイメージが生じてしまうかもしれませんが、そもそも自己以外を完全に理解するなどということはおよそ不可能で、それでも共に生きていくために自己を他者へ投射する「共感」という機能はとても美しいものだと私は思っています。他者を自己のうちに取り込む「理解」と、自己を他者へ投射する「共感」は全くベクトルの異なるものなので、本来代替品になるはずはなく、その意味で歪だと感じるのですが、しかし尊い働きかけだと思っています。

また、人間を人間以外から区別する基準に共感能力の有無を考える人間(つまり、人間を人間たらしめている特長的な能力は共感能力であると他ならぬ人間自身が定義していること)がとても好きです。これはフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で、人間と寸分たがわぬ容姿や表情、言語能力を有するアンドロイドを唯一見分けられるポイントが「人間のような共感能力を持っていないこと」だとされている点に大きく影響を受けています。

 

私は共感という働きかけが大好きですし美しいとも思っていますが、それが成立するためには前提として相互不理解がなければならないと思っています。理解できるなら共感は要らないはずです。誰も自分自身には共感しません。共感の余地なく理解できているからです。要するに私はボーイズ相互不理解が描きたかったのです。相互不理解にラブとルビを振るのはさすがに無理がありますが、理解できなくてもなお傍にいようと試行錯誤する精神の働きは愛以外の何物でもないと私は思います。

 

めちゃくちゃ余談ですが、これまで挙げた三作品とは対照的に、最初から最後まで理解も共感も成立しない、ただただ人間の理性の限界を思い知らされるばかりのおぞましいお話としてはスタニスワフ・レムの『ソラリス』を推します。大好きな本です。

2018年6月~9月分のお返事

大変ありがたいことにweb拍手でたびたびコメントを頂けるので、これからはここでお返事させて頂こうと思い立ちました。

一ヶ月以上前のコメントに返信をしても、もうコメントをされた方自身が覚えていなかったり、もうこのサイトを見に来ていなかったりする可能性もあるとは思うのですが、一応ひとつひとつお返事させて頂きます。

今後は一月単位でできるだけお返事していきたいと思います。

 

2018/6/16

> 共生を志向する知的生…

ありがとうございます。描いた漫画を好きと言って頂けると、描いてよかったと心から思えます。

 

2018/6/26

> 消えろクズ

ご要望に副いかねます。

 

2018/7/7

> さいきん突然セルフ嘔…

マリノさん!コメントどうもありがとうございます。日常の中で自分の描いたものを思い出していただけるというのはとても嬉しいですね。マリノさんの漫画はどれもマリノさんにしか描けないなあと見るたび思わされるものばかりで、尊敬しています。

 

2018/7/12

> はじめまして、めちゃ…

絵柄を好きと言って頂けるのはとても嬉しいです。技術的に意図して絵柄を変えるといった器用な真似はできないので、絵柄そのものを肯定していただけると大変救われます。内容まで褒めていただけてまことに光栄です。

 

2018/9/3

> 共生を志向する知的生…

ありがとうございます。一番汲み取ってほしい部分を見事に汲み取った上に感想として送って頂けて、ここで公開してよかったと思いました。「共生を志向する知的生命体」は、基本的には共感という優しい感情の上に立脚していながら、人類と人類にとっての絶対的他者である宇宙人との間にはどうしても拭えない相互不理解があるというお話にしたかったので、怖い、悲しい、と思っていただけるのはとてもとても嬉しいです。