読書感想文
『私は海をだきしめていたい』、タイトルがいきなり最高なんですが、「私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ」という冒頭の一文がいきなり強力すぎて心臓をわし掴みされたみたいな気持ちになりました。
人間は究極的には孤独だという諦めと、そのくせ他者を美しいとか何とか言って求めたがる諦めの悪さと、海のような巨大で無慈悲で無感情な何かに全てを託してみたいという破滅願望一歩手前の欲求と、そんな複雑でどろどろしたいろんな考えが淡々と寒々しく書かれている綺麗な短編でした。破滅願望とないものねだりが二大性癖なのでこの小説に出会えてよかったです。
いま探したら青空文庫にありました。こちらは底本が全集なので旧字や旧仮名遣いが多いですね。
安吾の小説には他にも好きな文がたくさんあります。『夜長姫と耳男』の「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」は座右の銘にしたいくらい好きですし、『青鬼の褌を洗う女』の「このまま、どこへでも、行くがいい。私は知らない。地獄へでも」も大好きです。どこか読む人を突き放すような冷たさがあっていいですよね。